昨今、バンド漫画はある種のブームを迎えている。
その起爆剤となったのは、言うまでもなく『ぼっち・ざ・ろっく』のヒットであろう。ギターやバンドといった要素を、きらら的なゆるふわな日常に落とし込んだこの作品は、バンドものの間口をぐっと広げた。無論、『けいおん!』の影響も無視できない。
一方、我々の世代にとってバンド漫画の金字塔といえば、やはり『BECK』だ。
小柄な少年、コユキが音楽と出会い、バンドを通し、人としてボーカルとして成長していく物語は、青春そのものであった。
しかしこの『BECK』は、連載時には冗長に感じる部分もあった。イジメや仲違い、妨害といったバンドの困難は胸糞が悪く、月刊連載では少々しんどかった。
それに対し、今回の『THE BAND』は、まさに“現代のBECK”とも言うべきだろう。
基本的な構造を踏襲しつつも、展開はコンパクトにまとまっており、非常にテンポが良く読みやすく構成されているのだ。これが実に素晴らしい。
流石ハロルド作石だ!
不器用な少年たち
主人公・友平は、いじめられがちな少年だ。
彼が音楽を通して唯一心を通わせた友人・マタロー。
マタローの内面にも問題が無いわけでなく、高すぎるプロ意識から孤立気味だ。
そして全面的な理解者である独身貴族の叔父・マコちゃん。ギターの提供者も彼である。
そのギターがまた良い。
ヘンな形の「カワイ ムーンサルト」は、まるで不器用な少年たちを象徴するかのように、作中で存在感を放っている。

彼らが人前で初めて演奏をするのは、商店街のお祭りだ。
メンバーも不在のなか、温かい手拍子に包まれて演奏するのは、ニルヴァーナの『リチウム』。
このシュールさと痛々しさ。
これこそが、バンドのリアルなのだ!
グダグダのライブを披露して、打ちのめされる。それでも、何かが残る。
そういった「素人バンド」特有の生々しさが、見事に描かれている!
機材の圧倒的なリアリティ
『THE BAND』では、ハロルド作石の画力がいかんなく発揮されており、楽器の描画は随一だ。
友平のムーンサルトを除けば、登場人物の機材はどれも現実的なものばかりだ。

マタローのギターは、おそらくIbanezのAZES31。カラー原稿では薄いブルーだから、Purist Blueだろう。

部長のベースは、AriaProIIのPRIMARY BASS。木目やサンバーストの描画は無いから、白系であると推測される。
どちらも廉価な初心者向けのギターで、中学生が手にする機材としてはとても現実的だ。
こういった等身大のセッティングが、物語のリアリティを支えているのだ。
きらら系のように、唐突にギブソン・レスポールが降ってくるような奇跡はここには無い。だからこそ、読者は現実的な目線でこの物語を追いかけることができる。
今後に注目
『BECK』の遺伝子を受け継ぎつつ、現代的なテーマとテンポで仕上げられた『THE BAND』。
これから友平たちはどんなバンドを結成し、どのような音を鳴らしていくのか。
今後も目が離せない。
さてさて、超恐ろしい女子達からバンドに誘われたのは・・・