私は機材の入れ替えが極めて激しいタイプだ。
その日も私は、増えすぎたギターの整理をしていた。
そのギターは弦が錆びていたため、引き渡す前に新品に交換しようと思った。
しかしそれは元々安ギターなうえ、手放す前提のギターにエリクサーを張る人は居ないだろう。
だから私はプレイテックの弦に張り替えたのだった。
それでも錆びた弦よりは随分とマシだろう。
そして錆防止のため、FAST-FRETも塗っておいた。
すぐに引き渡しは完了し、しばらくしてからこんなメッセージが届いた。
「私の娘もギターを弾くのですが、この弦をとても気に入って、メーカーを知りたいそうです。もしよろしければ、教えていただけないでしょうか。」
私は困惑した。
娘さんが気に入ったというその弦が、激安のプレイテックだと知ったらどう思うだろうか。
相手のプライドを傷つけないだろうか。
嘘をついても仕方がないので、私は正直に伝えた。
「張っていた弦はプレイテックというメーカーで、リーズナブルながら評判の良い弦です。さらに錆防止のためFAST-FRETという潤滑剤を塗っていましたので、フィーリングが良かったのだと思われます。」
全て事実だし、相手のメンツを潰さないように最大限配慮したつもりだ。
すると相手方は答えた。
「値段の問題ではないのですね。潤滑剤があることも初めて知りました。本当にありがとうございました。」
感謝してくれたようだったし、モノも気に入ってくれたようで安心した。
私は中古品の売買において、「相手を喜ばせる事」を大切にしている。
だから状態は正直に申告するし、できる限りのメンテナンスをしてから引き渡す。
錆びた弦のまま売ってしまう事もできたが、プレイテックとはいえ新品の弦に交換した。
それが功を奏して、喜んでもらえたわけだ。
ではその娘さんは、何故プレイテックの弦を気に入ったのか?
おそらく娘さんは、長らく新品の弦に触れていなかったのではないだろうか。
ノンコーティング弦の寿命は短く、音のピークという意味であれば数日も保たない。
しかし現実的には、数か月は張りっぱなしという人の方が多いだろう。
だからその娘さんは、プレイテックというよりも、新品という部分に感動したという比重が大きかったのではないだろうか。
そこにFAST-FRETが加わると、「これは良い弦だ」感じるのも無理はないだろう。
そんなプレイテックの弦だが、良いか悪いかでいうとまあ、良くはない。
しかしこれは安いことがウリの弦だから、品質にケチをつけても仕方がない。
安いなら安いで、それに見合った用途を見つければ良いだけだ。
弦交換の練習用にするとか、今回のように安ギターに張るのが適しているだろう。
このエピソードを先輩に話した時の反応は、以下の通りだった。
「まあ(安物とは)気づかんだろうね。」
そんなもんである。
因みに、英語のStringには「弦」だけでなく「繋ぐ」という意味もある。
このエピソードは、まさしくプレイテックの弦が繋いだ絆であろう。
だから大好き、プレイテック。
コメント