音楽評

ハロルド作石の「THE BAND」は、流石の面白さ。

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昨今、バンド漫画はある種のブームを迎えている。

その起爆剤となったのは、言うまでもなく『ぼっち・ざ・ろっく』のヒットであろう。ギターやバンドといった要素を、きらら的なゆるふわな日常に落とし込んだこの作品は、バンドものの間口をぐっと広げた。無論、『けいおん!』の影響も無視できない。

一方、我々の世代にとってバンド漫画の金字塔といえば、やはり『BECK』だ。

小柄な少年、コユキが音楽と出会い、バンドを通し、人としてボーカルとして成長していく物語は、青春そのものであった。

しかしこの『BECK』は、連載時には冗長に感じる部分もあった。イジメや仲違い、妨害といったバンドの困難は胸糞が悪く、月刊連載では少々しんどかった。

それに対し、今回の『THE BAND』は、まさに“現代のBECK”とも言うべきだろう。

基本的な構造を踏襲しつつも、展開はコンパクトにまとまっており、非常にテンポが良く読みやすく構成されているのだ。これが実に素晴らしい。

流石ハロルド作石だ!

不器用な少年たち

主人公・友平は、いじめられがちな少年だ。

彼が音楽を通して唯一心を通わせた友人・マタロー。

マタローの内面にも問題が無いわけでなく、高すぎるプロ意識から孤立気味だ。

そして全面的な理解者である独身貴族の叔父・マコちゃん。ギターの提供者も彼である。

そのギターがまた良い。

ヘンな形の「カワイ ムーンサルト」は、まるで不器用な少年たちを象徴するかのように、作中で存在感を放っている。

THE BAND 1巻 77P

彼らが人前で初めて演奏をするのは、商店街のお祭りだ。

メンバーも不在のなか、温かい手拍子に包まれて演奏するのは、ニルヴァーナの『リチウム』。

このシュールさと痛々しさ。

これこそが、バンドのリアルなのだ!

グダグダのライブを披露して、打ちのめされる。それでも、何かが残る。

そういった「素人バンド」特有の生々しさが、見事に描かれている!

機材の圧倒的なリアリティ

『THE BAND』では、ハロルド作石の画力がいかんなく発揮されており、楽器の描画は随一だ。

友平のムーンサルトを除けば、登場人物の機材はどれも現実的なものばかりだ。

THE BAND 1巻 54P

マタローのギターは、おそらくIbanezのAZES31。カラー原稿では薄いブルーだから、Purist Blueだろう。

THE BAND 1巻 72P

部長のベースは、AriaProIIのPRIMARY BASS。木目やサンバーストの描画は無いから、白系であると推測される。

どちらも廉価な初心者向けのギターで、中学生が手にする機材としてはとても現実的だ。

こういった等身大のセッティングが、物語のリアリティを支えているのだ。

きらら系のように、唐突にギブソン・レスポールが降ってくるような奇跡はここには無い。だからこそ、読者は現実的な目線でこの物語を追いかけることができる。

今後に注目

『BECK』の遺伝子を受け継ぎつつ、現代的なテーマとテンポで仕上げられた『THE BAND』。

これから友平たちはどんなバンドを結成し、どのような音を鳴らしていくのか。

今後も目が離せない。

さてさて、超恐ろしい女子達からバンドに誘われたのは・・・

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