映画音楽評

化物語から、ジャンルを超越した名曲。それは「君の知らない物語」と「恋愛サーキュレーション」だ。

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私の持論。良い音楽は、時代、世代、世界を越える。

「せーのっ」

名曲は平気で何十年も残るし、一年で消える曲なんて偽物だ。そして、そんなものは一聴して判断できるとさえ思っている。流行っているその曲が、十年後も聴かれているか。今と変わらず愛されているか。想像してみて欲しい。

ところで、化物語という作品の話。ライトノベル、及びそれを原作としたアニメだ。要するに深夜アニメなのだが話は非常に重厚で面白い。「怪異」と呼ばれる霊的、或いは神仏的な存在が起こす事件や、それに巻き込まれる主人公・阿良々木暦くんのお話である。

青春の痛み、或いは重すぎるトラウマ。そこに怪異、憑き物が絡み合う。

阿良々木くんはある日死にかけの吸血鬼・キスショットと出会い、助けを求められる。泣きじゃくる吸血鬼を助けるため、阿良々木くんは死を覚悟して血を分け与えた。しかし阿良々木くんは死ななかった。死ぬ覚悟をしていたはずなのに、何と目を覚ますと吸血鬼になっていたのだ。阿良々木くんは、不老不死という死よりも辛い運命に足を踏み入れてしまったのである。互いに人として、吸血鬼として傷物となってしまった阿良々木暦とキスショット。これは怪異体質な二人が織りなす青春偶像、怪異譚である。ここまでがTV版のエピローグ、「傷物語」のお話。ちなみに傷物語の原作はめちゃくちゃ面白いので、ラノベ好きには必読だ。

そして化物語のアニメには、とても有名な曲が2曲ある。

「君の知らない物語」「恋愛サーキュレーション」だ。

これらはゼロ年代アニメのOP・ED曲でありながら、世代や世界の垣根を飛び越えたとんでもない曲である。

君の知らない物語はsupercellの曲だ。作曲のryoは初音ミクの「メルト」で既に名を馳せており、コテコテのボカロソングや電波ソングが多数だった中、ボカロありきでないメルトの出来は頭ひとつ抜けていたと思う。そんなryoをメインとしたグループのsupercell初のシングルが、君の知らない物語だ。

まずアニメ本編との絡みはというと、カットインするタイミングが最高なのである。TVeditのオールインも良いし、フルバージョンのイントロも大変に良い。これが流れると最高に締まるし、次回への期待も高まるのである。もちろんそれはアニメソングとしての評価だが、この曲はアニメ抜きで見ても質が高い。歌詞の内容はアニメの本編とは全く関係が無いからだ。

フルバージョンは尺が長いのだが、そこがまた良い。夏や恋愛の未練たらしさを強調し泣ける仕上がりとなっている。バンドサウンドも若々しさを感じさせる。マジでこの曲はアニメソングに留まらない名曲だ。

一方、恋愛サーキュレーション。こちらは分かりやすくアニメソングだ。物語シリーズは各話ごとのメインヒロインがボーカルを執る決まり事があり、これを歌うのは千石撫子(cv.花澤香菜)だ。kawaiiという言葉が適当で、日本のポップカルチャーを体現したような曲である。

放送直後、バンド界隈は騒ついた。

「昨日の化物語見た!?」

「恋愛サーキュレーション最高でしたね!」

「あれ聞いてから一日幸せだったわ」

などと、少なくとも私の所属するサークル連中は大いに盛り上がっていた。音楽オタクとアニメは親和性が高いのである。

ピンク色でフワフワとした曲調や撫子自身の可愛さに、みな籠絡された。

しかし、実のところ千石撫子はクズである事が後のエピソードで明かされる。この時点ではそんな事は誰にも分からないから、誰もが浮かれていた。

千石撫子は一見可憐で内気な少女であるが故に周囲から甘やかされてきた怠け者で、性格最低女だったのだ。

良かったのう、たまたま可愛くて

忍野忍

何の努力も無く顔の可愛さだけで生きてきた彼女に、忍の厭味はクリティカルヒットした。たまたま顔が良いだけで他に取り柄のない人間だと見透かされてしまったのだ。

続編では彼女の負の部分が描かれ、それはOPにも反映されている。蛇に取り憑かれるわけだが、実のところ彼女自身が本質的に蛇のような女なのだ。しかし彼女には一つだけ。たった一つだけ、鍵をかけてひた隠しにしてきた夢があった。詐欺師・貝木泥舟がそれを看破し、大人として喝を入れる展開はあまりにも熱かった。彼女に必要だったのは、夢とそれを応援する大人だったのだ。

そして少し前、恋愛サーキュレーションがtiktokでバズを起こした。世界のアイドルやらインフルエンサーがこれに合わせて踊ったのだとか。単なる一介のアニメソングだと思われていたが、いつの間にかグローバルに愛される楽曲に変貌していた。他にもテレビ番組で使われたりと幅は広い。

が、個人的には「tiktokでバズる」ことはマイナスだと思っている。自分の好きな曲がTikTokで素人のタコ踊りに消費されていたら気分が悪いし、10代の糞餓鬼がポロロッカしてきたら腹が立つ。しかしそういうのも流行の一つだろう。

流行関係無しに言えば、私は憑物語OPの「オレンジミント」が大好きだ。meg rockとクラムボンのミトによる楽曲で、斧乃木余接(cv.早見沙織)の声が心地よい。キャラクターソングではあるがキャラクター性はあまり強くなく、こちらもアニメ抜きで評価できる非常にレベルの高い曲だ。

登場してから歌われ続けている君の知らない物語と、世界で愛された恋愛サーキュレーション。

1シーズンのアニメからロングヒットを二つも飛ばした化物語は、それ自体がちょっとした怪異かもしれない。

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