ナンバーガール音楽評

向井秀徳の著書、「三栖一明」を読む。

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神様のような存在であっても、やはり普通の「人」である。

スタジオジブリ社長室長の橋田真が、宮崎駿・高畑勲・鈴木俊雄の三人についてそう語っていた。もっと極端に「普通のおじいちゃん」と言っていたかもしれない。

私にとっての向井秀徳も神格化された存在だが、当然ながら人である。

腹を抱えて笑った私

向井秀徳は音楽について神がかり的な力を発揮する一方で、普通の人で居る事もあるだろう。本書ではその普通の部分を全て曝け出したかのような、煽り文の通り恥アーカイブ集であった。

正直私はこの本を読んで爆笑した。抱腹絶倒と言っても良い。酔っ払っていたせいかは分からないが、事あるごとに本を閉じてヒャッヒャッヒャと笑ったのである。素敵な時を過ごせたこと、向井秀徳氏には感謝したい。

以下に私の気に入ったエピソードを抜粋して紹介したい。

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バンドマンぶる向井

今の向井秀徳から考えると、彼が「バンドマンぶる」事などあり得ない。しかし彼は高校時代、惚れた女に偶然を装って会いに行く際、わざわざベースギターをソフトケースに入れて抱えていたというのだ。まさか、向井秀徳ですらそうだったのか!

私もほぼ同じような経験がある。私はギターを持って歩くことが誇らしかった。スタジオに向かう自分の勇姿を皆に見てもらいたかった。

私の友人は通学カバンにスコアブックを忍ばせ、教室でこれ見よがしに広げていた。

あの向井秀徳でさえ、思春期にありがちな「自分音楽やってます」アピールを敢行していたのである。

そこでもう私は限界を超え、声を上げて笑っていた。しかしこんなのはまだまだ序の口だ。

「俺たち」でなく「俺たちゃ」

♪俺たちゃニュースクールラップのチーム!

向井秀徳が学祭で発表したラップの歌詞

向井秀徳が学祭で発表したラップの歌詞。”俺たち”でなく”俺たちゃ”である所がミソ。その辺がボキャブラリーの限界だったそうだ。

これはもう、笑かしに来ているとしか思えない。私は今これを書きながらまた笑っている。

しかし学祭でオリジナルソングを作って発表するという時点で、音楽的なバイタリティに満ち溢れているということが分かる。

優しいお姉さんに惚れがち

この男はとにかくすぐ恋に落ちる。そしてさっさと飽きてしまう。盲腸で入院した時、看護婦のお姉さんに淡い恋心を抱く。高校生にして美容師のお姉さんにアタックする。自動車教習所で声をかけた女の子はまたしても美容師見習い。コピバン界隈で出会った一つ上の女性からは軽くあしらわれてしまい、その人の腕にはTATOOあり。さらには風俗嬢とプライベートで会おうとする。

どういうわけか相手は年上の優しいお姉さんばかりだ。

そうして恋をしているとき、彼の頭の中では常にザ・ラーズのゼア・シー・ゴーズが流れていたという。

彼の恋愛エピソードは青春ラブコメそのもので、それだけで一本書けてしまうと思う。あまりそんなイメージは無かったが、恋愛に対して彼は非常に積極的だ。

風俗でカッコつける向井

今日はもうそういう行為はいいから、お話だけしよう。

そう言ってカッコつける向井。そういう行為のためにお金を払っているのに「お話だけしよう」で済ませてしまう。

これは非常にマズい兆候で、要するに風俗嬢に本気になってしまっているのだ。現代の言葉で表現するのなら「ガチ恋勢」である。

デートの約束を取り付けるもすっぽかされ、店で待ち伏せする向井。完全にエスカレートしている。次第に風俗嬢は連絡が付かなくなり、お店にも出勤して来なくなる。

そうして恋は終わりを告げるが、重症化する前に目が覚めて良かったと思う。

打ち上げに来なかったナカケンとひさ子

ツアーを終えたナンバーガール、最後には関係者を集めた大きな打ち上げがあったが、何故かナカケンとひさ子は出席しなかった。

ナカケンは既にナンバーガールを辞めるつもりだった。そんなナカケンを気遣って、田渕ひさ子も欠席した。優しさである。

その打ち上げで向井秀徳は「これからもよろしくお願いします!」と宣言したにも関わらず、数日後にはナカケンから脱退の意向を告げられた。

辞めるつもりの人間が、そんな打ち上げに参加する筈もなかったのだ。

怒ったひさ子

ライブ本編がイマイチだったとかで、向井秀徳は1時間ものアンコールを決行。流石の田渕ひさ子も怒って、最後はピックを投げ捨てて帰ってしまったという。

向井が言うにはそれ解散の決定的瞬間だったらしいが、バンド内での温度差ができていたことは間違いない。向井一人が突っ走っていた状況だったのだろう。

まぁ、バンドがギスギスしてたから、スタジオ内での会話もほぼなかったし。何かちょっと疲れたっていう感じですかね。

中尾憲太郎
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ただしナンバーガールは向井の独裁主義的なバンドという事はなく、割とメンバー皆好き勝手やらせてもらっていたというのは中尾憲太郎の弁。

ラーメンを作るMATSURI STUDIO

何故かMATSURI STUDIOでは豚骨を煮込むところからラーメンが作られていた。その味を絶賛したリリー・フランキーが、MATSURIラーメンを製品化してくれる企業を募集していた。まだ製品化には至っていない。

包茎手術を受けたい向井

19だか20の頃、三栖一明の家でだべっていた時。向井は「包茎手術を受けたい」と言い出した。皆が「男としての中身に自信を持つべきだ」とたしなめたところ、「いや、中身には自信がある」と向井。

まだ何も成し遂げていない男、向井秀徳。チンコに自信は無いが、男としては自信満々だった。

Tシャツを作る憲ちゃん(中尾憲太郎)

Tシャツを作っていたのは三栖一明と中尾憲太郎だった。中尾が予算の都合上不可能なデザインを提案し、それに三栖がストップをかけるという事があった。すると中尾は「それじゃデザインできない(怒)」と言った。

通したいデザインがある中尾と、それにストップをかける三栖。

デザイナーとしての役割が逆転している状況にハッとした三栖は、「憲ちゃんの方がよっぽど良いデザイナーだ!」と思ったらしい。

デザイナーとして成熟してくると、予算や売上の皮算用が先行してしまうのだろう。そうすると自分の本当に表現したい事が曇ってしまう。

憲ちゃんの言葉が、デザイナーの本懐を思い出させたのだった。

そういえばナカケンっていつもTシャツ着てるな。

全然関係無い話

これは本の内容とは関係無い、私の大学の先輩の話。熊本で向井秀徳と遭遇した事があるらしく、その先輩も愚直な人で「私はあなたのファンです。握手してください。」と申し入れたところ、向井秀徳は猫のような口でニコッと微笑んで握手をしてくれたそうだ。伝聞であるが、その先輩の発言と向井秀徳の表情がありありと想像できる、私の中での名エピソードだ。向井秀徳は奇行が目立つが良い人だった。

超面白かった・・・。

本を読むのは久しぶりだったが、こんなに笑ったのも久しぶりだった。本ってこんなに笑うものだったっけ。

当書は向井秀徳にインタビューする形式になっており非常に読みやすく、私は2日で読了した。今は二週目を読んでいる所だ。

タイトルになっている三栖一明はナンバーガールのデザイナーで、高校三年生の時向井とはクラスメイトだった。出席番号順に並んだからだろうか、集合写真では隣同士になっている。

この二人の関係性は言葉では言い表せないらしいが、やはりマブダチという言葉が相応しいと思う。

もう一人のナンバーガール、三栖一明。本のタイトルにまでなってしまった彼を称賛したい。

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