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DIYギター

ラッカー塗装、ポリウレタン塗装、ポリエステル塗装の良し悪しについて

私は塗装の種類にはあまり頓着せず、極薄ラッカーだから激鳴り!みたいな与太話は好きじゃないです。

とはいえ好みはありまして、やっぱりラッカーが好きですね。というか多くの人がそうじゃないでしょうか。風合いの変化が楽しめますし、新品でも独特の滑りがあって美しいです。ポリウレタンはいつまでもツヤツヤテカテカで、維持が楽なことがメリットですね。そしてポリエステルはポリウレタンと似ていますが、速乾性が高く大量生産向きである事から安ギターに採用されている事が多いです。

比較してみる

私の手元には丁度3パターンが揃っていますので比較してみましょう。

ラッカー塗装

このジャズベはラッカー塗装でレリック加工されています。50万円クラス。

ラッカー塗装というのは、ギターの世界ではニトロセルロースラッカーの事を指します。私たちが普通に使うスプレー缶はニトロセルロース+アクリルのラッカースプレーと、アクリルのみのアクリルスプレーがあります。要は主成分がニトロセルロースかどうかなので成分表を確認しましょう。アサヒペンの公式サイトで詳しく解説されています。

アサヒペン

ラッカー塗装は溶剤で溶いた塗料を吹き付けて、シンナー分が揮発することによって塗膜が形成されます。成分のほとんどが溶剤ですので、揮発後に残る塗料成分はごく僅かです。そのため塗膜は薄く、耐候性が低く剥がれやすいのが特徴です。また乾燥が遅く厚塗りすると乾燥不良、ピンホール、気泡、液垂れなどのトラブルが起きてしまうため薄塗りと乾燥を繰り返すという手間のかかる作業が必要です。

そうして形成された塗膜は大変デリケートで管理に気を遣いますが、独特の滑りがあり大変美しいものです。また塗膜が薄いというのはギターにとってはメリットであり、木材の良さを活かせるうえ経年劣化による風合いの変化が楽しめるためです。しかしコストが高いので基本的には高級なギターにしか採用されません。

高いけれど、美しい。使い込むと味が出る。それがラッカー塗装のメリットです。

ポリウレタン塗装

フェンダージャパンのジャズマスターもポリウレタン。10万円クラス。
こちらのグレッチG6120はポリウレタン。40万円クラス。

続いてポリ塗装。ポリ塗装はポリウレタンとポリエステルがあり、この二つは似て非なるものです。二液を混ぜて化学的な反応で硬化するという性質は同じですが硬化時間と硬さが異なります。アパレル関係の人は詳しいと思いますが、ポリエステルの服がガサガサしている事と、ポリウレタン混紡のデニムがよく伸びる事をイメージしてください。

ポリウレタンはポリエステルよりも硬化が遅く、伸縮性があります。硬化が遅いと言う事は厚塗りには向きません。その分薄く仕上げる事が可能で、シースルー塗装で木目を見せることにも向いています。

実際のところポリウレタン塗装はラッカー塗装と同じくらいの手間がかかるうえ、塗料自体はラッカーよりも高いそうです。

しかしポリウレタンの塗膜はラッカーよりも遥かに頑丈であるため、塗装後の取り扱いが楽です。塗装後の組み込み作業の効率が良いため、結果的に生産コストが低くなります。

デメリットとしては黄変しやすい事で、白いギターで顕著です。ポリウレタン塗装のホワイトファルコンなどは大抵黄変していますが、黄ばんだギターは嫌いじゃないです。ちなみに白以外だとそんなに目立たないですね。

頑丈かつ伸縮性があり、塗膜は薄め。コストはラッカーよりは安い。トータルでバランスが良くギターにとっては都合の良い塗装です。そのため中級機から高級機まで幅広く採用されています。

ポリエステル塗装

石ロゴフェルナンデスのムスタング、FMT-40はポリエステル。4万円クラス。

対してポリエステル塗装。硬化が非常に早く、硬質に仕上がります。伸縮性は一切無くカチカチです。一気に厚塗りしても均一に硬化するため、少ない工程で厚く頑丈な塗膜を形成する事が可能です。工数が少なく、頑丈。大量生産向きであるため、安ギターに採用される事の多い手法です。実際に安ギターのポリエステル塗装は厚さが2mmもある場合があり、塗膜だけで2mmもあれば200gぐらいになるかと思います。ギターにとっての200gは案外無視できない重さです。

安ギターの塗装が妙に厚ぼったい事と、ぶつけるとバキッと大きく欠けてしまうのはポリエステル塗装の硬さによるものなんですね。1970年代、フェルナンデスなどの日本のコピー品はポリエステル塗装が主流でした。木目を見せないソリッドカラーには向いています。

ポリエステル塗装のメリットは安くて丈夫という点。ギター保護という観点では最も優れた塗装ですが・・・。

安ギターといえば粗悪なバスウッドや合板で、それを分厚いポリエステルでカチカチに塗り固めています。それはもう木と言うよりは樹脂の塊みたいなものですね。

実際木材や塗装が音に与える影響は少ないと言われていますし、必ずしも良し悪しを決定するものではありません。実際「ポリエステルだから音が悪い」と感じた事は無く、聞き分ける事は不可能です。しかし低コストを追求した結果品質の低い木をポリエステルで塗り固めたものを、「良いギター」とは全く思えない事は確かです。

しかし例外もあって、ミュージックマンではポリエステルが採用されています。一概に安物だけがポリエステルというわけではないんですね。強度が高いという合理性からポリエステルが選定されている場合もあるのです。

なぜミュージックマンはボディをニトロセルロースではなくポリエステル・フィニッシュにしているのですか?

今日ではニトロセルロース・フィニッシュは非常に稀な方法です。理由として、この環境汚染物質を吹き付ける事は、カリフォルニア州を皮切りに規制対象となっている地域が年々増えているからです。我々はビンテージ楽器のルックスは好きですが、縮んだり、ひび割れたり、傷が付いたりするのでポリエステルやポリウレタンフィニッシュより強度がございません。そんな品質で製造していた時代もありましたが、近年では受け入れられなくなっております。最近では殆どのギターメーカーがポリエステルやポリウレタンフィニッシュを採用しており、これは自動車産業でも同様の事が言えます。それらは耐久性があり、縮んだり欠けたり、ひび割れや傷が付きにくく、ニトロセルロースのように取り扱いは容易ですが、値段は高くなります。ギターと自動車のフィニッシュに違いは殆どありません。自動車は常に低温や太陽光、雨などにさらされますが、このギターにとって最悪とも言える環境でも色あせない耐久性を持ちます。ポリエステルはトップコートで一番の強度を持ち、黄ばみやひび割れに対する高い抵抗力があり、他のどの素材よりもギターを保護します。

https://www.musicmanguitars.jp/faq#category2

割れ方の比較

こちらはラッカーのジャズベースの打痕。割れるというよりは削れている感じですね。塗膜が薄いので、大きく欠けることは少ない印象です。細かく入っている筋はウェザーチェックで、気温や湿度の変化によって生じます。こちらはカスタムショップ製でヴィンテージではないので、温冷で意図的に作り出したウェザーチェックですね。他の塗装では起きない現象です。

こちらはポリウレタンのジャズマスターの打痕。窪んでいますが、ある程度木材と塗膜が追従していますね。まあ打ちどころによりますが、大きく塗装が持っていかれる印象はありません。

こちらがポリエステルのムスタングの打痕。周囲を巻き込んでバキッと大きく割れているのが分かります。これがポリエステルの典型的な割れ方ですね。塗膜の断面をよく見てみるとかなり厚いのが分かります。まあギターの傷なんて勲章みたいなものなので、気に病む必要も無いのですが。またポリウレタンとポリエステルはレタッチが困難です。

見分け方について

ラッカーとその他を見分けるのは簡単で、溶剤で拭いて溶ければラッカー塗装です。もちろんボディ表面で試すわけにはいきませんから、キャビティ内部を除光液で拭えば良いです。

しかしポリウレタンとポリエステルを見分けるのは困難です。まあ十中八九、10万円ぐらいのギターはポリウレタン、3万円以下の安ギターはポリエステルですが。中古ならば前述の通り打痕で判別する事も不可能ではありません。大きく欠けていたらほぼ間違いなくポリエステルです。

まとめ

実際の所、必ずしも良し悪しを決定するものではなく、音の差異を判別する事は不可能です。まあ大体、値段の順にラッカー>ポリウレタン>ポリエステルという事が分かっていればギター選びの参考にはなると思います。

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