映画音楽評

セッションのフレッチャーはクズなのか?

スポンサーリンク

「フレッチャー クズ」で検索して来られる方が多いようですが、クズです。但し唯のクズではなく天才的クズ、パワハラによって才能を引き出す天才なのです。常軌を逸したクズでないと偉業は成し遂げられないのです。

今更ながらNetflixでセッションを観ました。かなり面白かったのですがどうもモヤモヤしています。果たしてこれで良かったのか?という疑念が拭えません。しかしそれは製作陣の思惑通りで私の反応は正しいようです。

厳しい師弟関係で色々あったけど、最後は良い演奏をしてハッピーエンド!という単純な話ではありませんでした。

これは、音楽を媒体とした天才的クズ同士の殴り合いなのです。

まずはメインの二人から簡単に紹介します。

スポンサーリンク

主人公:ニーマン

音大初等部のドラマー。ドラムの腕前はそこそこですがフレッチャーの指導により狂気を帯び才能を開花させる。その過程でクズと化す。

鬼コーチ:フレッチャー

有名な鬼コーチ。パワハラの天才で生徒を徹底的に追い込むのが得意。たまたま気に入ったニーマンを自分のバンドにスカウトする。クズ。

冴えないニーマン、気まぐれフレッチャー

ドラマーのニーマンは名門音大の一年生。その時点でかなりのレベルではあるのですが、初等部バンドの第二奏者に甘んじているようなレベルです。上手いことは上手いのですが、エリートの中で一歩秀でるようなドラマーではありません。

夜遅くに練習しているところを偶然にも鬼コーチであるフレッチャー(クズ)に見出され、バンドに誘われる所から話は始まります。

フレッチャーはニーマンに多少の才覚を感じ取ったのかもしれませんが、単にその姿が気に入っただけでほとんど気まぐれといって良いです。

ニーマンは有名な指導者に誘われ多少いい気になりますがそれも束の間。最初に優しい言葉をかけたのは完全なブラフで、一瞬にして本性を表します。

フレッチャーが練習室に一歩足を踏み入れるだけで、バンドメンバーの間にピリッと緊張が走る。違和感を覚えるニーマン。実はフレッチャーは常軌を逸したスパルタ指導で知られる鬼コーチだったのです。

ごく僅かなテンポの狂い・通称ファッキンテンポに激昂し、怒鳴るわ殴るわモノ投げるわでとんでもない暴君です。この時点で分かるのは、彼は狂人であるということ。

そうした指導の中でこそ、最高の演奏が生まれると信じているのです。

一方ニーマンはそこそこドラムの才能はあるものの、今ひとつ自信が無い状態です。フレッチャーほどの熱意があるわけでもありません。

パワハラの天才

フレッチャーはパワハラの天才で、あらゆる手段を用いてニーマンを徹底的に追い込みます。やがてニーマンにも狂気が伝染し、音楽のために恋人を一方的に切り捨てるほどの立派なクズに変貌します。

更にはフレッチャーの指導に食って掛かるほど。これにはフレッチャーも驚いており、この作中における成長点なんですよね。

この時点でフレッチャーはニーマンの潜在能力、熱意、狂気を引き出すことに成功していたと言えます。自分の求める、音楽だけに全ての情熱を傾けられる奏者へと育て上げられたのです。

私が思うに、そこまでは上手くいっていたのだと思います。しかし不幸な事故が原因でニーマンは完全にブチ切れ、壇上でフレッチャーに殴りかかってしまいます。ファッキューフレッチャー。その事件によりニーマンは退学させられ、完全に心が折れてしまうのでした。

ニーマンの復讐

このお話は復讐の連続で成り立っています。ニーマンはフレッチャーの行き過ぎた指導を警察に密告したんですね。これが第一の復讐です。それによりフレッチャーは大学をクビになりましたから、第一の復讐は成功です。しかしお互い露頭に迷うハメになりましたから痛み分けの結果に。

フレッチャーの復讐

大学を去ったあと二人は偶然にも再開します。 そこでフレッチャーは自分のバンドにニーマンを誘います。

今度ライブをするから、是非参加してくれないか。君の知っている曲をやる。

これは甘言で、フレッチャーによる罠です。いざ本番を迎えるとバンドはニーマンの全く知らない曲を始めます。

チクったのはお前だろ、と詰め寄るフレッチャー。フレッチャーはニーマンより一枚も二枚も上手で、ニーマンが警察に密告したことを知っていたのです。

ニーマンはうろたえることしかできず酷い演奏を晒してしまいます。舞台で恥をかかせるというフレッチャーによる復讐は大成功。

何故フレッチャーはニーマンの密告を知っていたのか?

途中フレッチャーの教え子がパワハラを原因として自殺してしまうのですが、フレッチャーはバンドメンバーに虚偽の説明をします。

「教え子が事故で死んだ。彼は良い奏者だった。惜しい人を亡くした・・・。」

そういってわざと涙を流して見せ、教え子の自殺でさえもバンドメンバーの洗脳に利用したのです。

しかしニーマンだけは警察からガサが入ったことによって、事故ではなく自殺で亡くなったという真実を知ることとなります。

その後フレッチャーはニーマンに生徒の自殺を打ち明け、「密告したのは自殺した生徒の同期だろう」とカマをかけます。

その時ニーマンは、自分が疑われていないと思ってホッとしてしまいました。

本来ニーマンは自殺の真実を知らないはずなので、「事故で死んだと言っていた生徒は自殺だったんですか!?」と驚かなければいけなかったのです。

流石のフレッチャーは悪い大人で、ニーマンの一枚も二枚も上手なのでした。

ニーマンの”逆襲”

ニーマンが舞台から立ち去り涙するのを父親が慰めます。しかしここでニーマンの目に狂気が宿ります。ニーマンは再度舞台に上がり、勝手に演奏を始めてしまうのです。ニーマンによる最後の逆襲です。他のバンドメンバーも合わせざるを得ず、なし崩し的にキャラバンが始まります。ここからが、誰もが知っているラストシーンです。

ニーマンの勝利、逆襲の成功

最後の演奏は大成功。互いの求める究極のレベルを達成することができたのです。逆境を跳ね除けフレッチャーをも唸らせたニーマンの圧倒的な勝利です。それでこの映画は本当にここで終わりなのです。

それで本当に良かったのか?視聴者に委ねられたラスト

二人の天才的クズが復讐を重ね、最後はドラマーが勝利。結果的に究極の演奏が生まれました。

しかし考えてみれば二人共大学を追われた身、今後の音楽人生はどうなるのでしょうか。

この二人は心の底から憎しみ合っており、和解するなどあり得ません。実際フレッチャーは厳しい環境下でこそ最高の演奏が生まれると考えており、皮肉なもので実際にその通りになってしまいました。

確かに素晴らしい演奏が生まれた。しかしその代償は大きかった。それが私の解釈です。

フレッチャーは何を犠牲にしてでも高みを目指す人間でニーマンもそれに追従しました。この映画は最初に書いた通り狂人の物語です。音楽の音楽のため、最高の演奏のため。そのためであれば全てを犠牲に出来る、そんな二人の物語なのです。

二人が辿った結末の良し悪しは、凡庸な私たちには判断できなくて当然なのかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました